新美の巨人「葛飾北斎『怒濤図』×柳楽優弥」〜面白かったけど、あのCGを北斎の真意と印象づけるのは如何なものか

土曜日の「新美の巨人・葛飾北斎『怒濤図』×柳楽優弥」、見ましたが、なかなか面白かったですね(この記事の画像はすべてWikiより)。

北斎の映画公開ということもあって、若い北斎を演じた柳楽優弥をナビゲーターにしたり、その映像を公開したりと内容も盛りだくさん。

映画はまだ見てないけど、どんな感じかな。

画家をモデルした映画は退屈なものが多いのですが、田中泯さん演じる晩年の北斎の画像の迫力は、ちょっと見たくなるものでした。

番組は北斎の波の描き方に焦点を当てていて、若い頃の波、40代、50代の波。そして75歳だかで、あの神奈川沖波裏の波に到達した様を追っていましたが、その先、小布施で書いた 『怒濤図』が番組の主人公です。

近年、内外問わずに北斎の名声は上がる一方ですが、いやはや…北斎という人はそれ以上ですね。まさか神奈川沖浪裏の、その先が『怒濤図』だったとは!

私が『怒濤図』のことを知ったのは、大学院に入って最初の年に材料学のセミナーで、「長野県の小布施に北斎の肉筆がある」と、講師の先生方が見てきた話を聞いてからでした。

今ほど、小布施の北斎は有名でなく、それがどうやら油彩で描かれたという話を聞いて二度びっくりしたものです。

▼それがこちら小布施の『龍図』です。

だから番組を見て三度びっくりしたのが、どうやら小布施の天井画が油彩ではなく、膠やアラビアガムをメディウムに使っていたということです(日本画や水彩と同じ材料)。

北斎が西洋画の油彩を学んでいたことは間違いなく、小布施の天井画も(私は未見)、油画の色調そのものだったので、ずっと油彩で描かれたものだと思い込んでいたのですが、いやはや…。

番組では、描かれた当時の色がもっと鮮やかだったことに焦点が当てられていましたが、経時変化で絵の色が変わるのは当たり前のことだったので、素材そのものが自分が思っていたものと違っていた方がびっくりだったのです。

番組自体は面白かったのですが、残念だったのは、北斎の波をCG動画で再現したものを、あたかも北斎の真意であったかのように印象づける語り口ですね。

たとえば、ミケランジェロのシスティナ礼拝堂の修復などは、表面についた埃やゴミを取り除いて、元あった絵を再現するという、科学的な根拠に基づいています。
実際、ナポリのカポディモンテ美術館にある、当時のシスティナ礼拝堂を見て描いた油彩の模写を見ると、修復後の色彩に限りなく近いことがわかります。

でも、CGの動画は当時からすれば、考えもされなかった技術です。
あれをCG作家個人の北斎オマージュ作品として公開するなら、それは面白いし、何の問題もありませんが、北斎の真意であったかと印象づけるのは如何なものかな。

なんか、美空ひばりや渋沢栄一のAIを出してきて、
「お久しぶりです。あなたのことをずっと見ていましたよ」なんて言わせる気持ちわるさを感じました。

番組自体が面白かっただけに、ちょっと残念だったかな。

映画の「北斎」は見ようかと思っています。

 

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