ユングの部屋

この部屋に入る前にみなさまに申しあげておきましょう

ひとたびこの部屋に足を踏み入れたら最後 二度と戻ってこれぬかもしれません
それがお厭なかたは どうぞ部屋には入らぬようお願いいたします

絵はおもに作者の見た夢を映像化しています
いわばじぶんの脳の深い部分を開示しているのですが
みなさまの中には これとおなじ景色を見た方がいらっしゃるかもしれません

わたしたちの脳髄に まだ人間がサルや鳥や爬虫類や両生類や
バフンウニやクラゲだった頃の記憶が残ってるとすれば
もしかすると夢には脳の古い皮質にある情報が隠れているかもしれません

では、みなさまと私の脳髄をリンクさせて、
トリップいたしましょう。
そう 出かけた地点はしっかり覚えておいてくださいませ
さもないと もとの世界に帰って来れなくなるかもしれないから・・・


ドゥルガの奇跡

この絵に辿り着く前には 秘密のにじり口をくぐり抜けないといけません

前頭葉の栓を抜いて入口を開くと
もうひとつ別の世界の
東京都世田谷区三軒茶屋商店街の銭湯の富士山が 見えてまいります

トタン屋根やブリキの屋根が集まっている狭い路地を通りぬけ
悶々とした時を過ごした 一畳半の部屋に土足で踏み入ると
透明な丸見え銭湯にたどりつきます

それは時々 木箱の部屋になったり
コインランドリーになったりと なかなか見つけにくいのでちゅういが必要です

左に曲がり踏み切りを越えて土手を渡ると
この絵の広場に到達します

 

 カンピドリオ広場にて

カンピドリオ広場は
ミケランジェロの設計した階段で有名なローマの名所ですが
この絵はもちろん夢の中のカンピドリオ広場です


丹後だんだんの石段を登って、カンピドリオを往復します

なんだ、歩いていけるんじゃないか
でも ほんとはここはカンピドリオじゃなく
丹後だんだんに戻るためには むりにもどろうとしなくていいんだ
これは夢だから ぼくわだいじょうぶなんだとあんしんしました

ペンネンネンネンネン・ネネムの奇跡
ふるい木造校舎にわツタがはえています
ぼくわ枯れたあかいツタのポツポツをむしると
タンタンと音がしておもしろかったです
お不動さまのとこでもツタが生えていて
ツタ取りをしようとすると
おおきなイモムシがいて驚いたです
「うわあ、でかいぞ! 」
リッチョーネがいいました
「あれはスズメガのよう虫なんだぜ」
リッチョーネは はかせと言われていてなんでもよく知ってて
スズメガのよう虫はおしりにカギがあるから
すぐわかるんだといってました

「えい!」
「えい!」

ぼくらわみんなで石を投げはじめました
「誰がいちばん最初にぶつけるか、きょおそうしようぜ」
そおいってリッチョーネが投げた石が いも虫にあたると
いも虫は緑いろの血をどろどろ流してツタの葉っぱから落ちました

「うわあ、おつゆがでたぜ」

リッチョーネとぼくわ 大声おだして
みんなも「おつゆだ、おつゆだ」といってさわぎました
お不動さまのまえわ小さなお墓で
木の板に「ンす」「ンす」とかいてあって
みな「ンす」「ンす」 といってかえりました

クォーク・ダンス(Here Comes Everybody)

みなさまは夢の中で
ジェットコースター状態になって
意識が飛んでいったことがありませんか?

壁や床や高速道路の裏側を時速180km/hのスピードで
ギュンギュン走ると
脳がバーストする恐怖感を覚えませんか

うあああああああああああああああ!

この絵ではおすもうツインズが描かれてますが
実際には、太ったイタリア人シェフがタックルしてきたのを
「そうはいくか」とかわしながら 飛んでいった夢でした

おそらくは、脳の制御装置が一時的に壊れて
こういった夢を見るのでしょう

クォーク・ダンス2

この絵は「Here Comes Everybody」の続きです
若貴全盛の時に描いたもので
おすもうの間に先の副将軍さまがおわすのが違うところです

浮舟

この浮遊するひとがたは 夢の中の意識です

これらは水木しげる先生の「ゲゲゲの鬼太郎」に出てくる
陰毫羅鬼(おんもらき) という妖怪によく似てます

陰毫羅鬼は肉体と魂を自由に分離できるのですが
たまたま これはその魂の姿によく似てます

 水木しげる先生いわく
『絵画は見えないものを描く世界に突入するべきだ』

 まさにその通り

タイトルの「浮舟」は源氏物語の宇治十帖に出てくるヒロインのひとりですが
この絵と直接の関係はありません

鳥は野火のもとに舞いおりる

ここでは恐ろしい世界を表現しています

 鳥は描かれてませんが くさむらの中にひっそりと潜んでいます
人々はおびえ 争い いがみあっていて あまり良い世界ではありません
くさむらの向こうでは 何か恐ろしいことが起こりつつあります

このタイトルは武満徹のオーケストラ曲
「鳥は星形の庭に舞い降りる」から取っています

消え去ったナスターシャ


ナスターシャというのは
ドストエフスキーの「白痴」に登場するヒロインの名です
この絵はそのラストのバリエーションです

ナスターシャを永遠に自分のものにするため
粗野な男ロゴージンは恐ろしい手段をとりました

恐ろしいラストシーンなのに 世界一美しいラストシーン
この絵では恐ろしさだけがが全面に出ています

何が国境で起こったか?

この作品だけは20代の時に描かれたものです
北朝鮮から謎の風船が流れてきた事件をヒントに描きました

これは不安な世界を描いた最初の作品ですが
今でも彼の国が変わらないことに驚かされます

ローマの宿にて

 

現実のローマではなく 夢の中のローマです
夢の中では自転車でコロッセウムの前まで行くことができました

酸ヶ湯温泉のドゥルガ

前のホームページの「雪の日のドゥルガ」を改題したものです

「ドゥルガの奇跡」の姉妹編です
ここでのドゥルガは透明ではなく 赤いガラス状の彫刻でした

湯の町バラード

 

夢の中の北九州の印刷工場
手前は温泉です

のぼとけ六地蔵


わたくしの実家は地元で「お地蔵さま」とか「六地蔵」と呼ばれる
浄土宗のお寺の中にあり それは水のようなものでした

はじめはお地蔵さまを六体描こうとしましたが
構図の関係で三体となりました

円周軌道上のホムンクルス

 

ホムンクルスというのは錬金術の世界で伝えられていた人造人間です

ゲーテの「ファウスト」で有名になり
今ではマンガでも知られるようになりましたが
ホムンクルスはフラスコの中でしか生きられません

拙著「シエスタおじさん」の中では、
それを精霊の歌として
「ファウスト」の最後の部分を引用しました

マーラーが「一千人の交響曲」のテキストに使用していた部分です

もうひとつのZona Rosa

 

Zona Rosa(ソナ・ロッサ)というのは
メキシコシティの繁華街のことですが
これはもちろん別の世界のソナ・ロッサです

幻橙機

この絵は30代前半の心が苦しかった時期に描いたものです

絵が描けなくなり
何を表現してよいのかわからなくなったので
仕方なく夢をキャンバスにうつす作業をはじめました

あとで聞いたところ それは心理学的に大変危険な行為だそうで
なんでも自分の古い脳の皮質に入ったまま 帰れなくなるんだとか

幸い もとの世界に無事帰還できましたが
部屋のトップに展示された「ドゥルガの奇跡」や「カンピドリオ広場にて」は
もっともあぶない時期に描いたものといえましょう

これは禅の世界では幻覚を「悟り」と勘違いする
野狐禅といわれ厳しくたしなめられています

↑ まだ若い頃の作者です

さーて
どこから入ったかちゃんと覚えてますか?

先ほどももうし上げたでしょう?
意識の奥底に入る行為というのは
実は大変危険なことなのですよ

なぜならあなたの脳の中の宇宙は、あなた自身が思ってるほど小さくないし、
もっと複雑で広いものだからです。
ひとたび自分の脳髄の中に入り込んで道を失うと、
もと来た場所に戻るのは至難の技。
脳のことなるパーツどうしが衝突を起こして、
あなたの思考が完全に停止する危険もあるのです。

甘粕大尉の茶会

甘粕大尉は「ラスト・エンペラー」で坂本龍一が演じていたことで
その名を覚えた人もいるでしょう

これも不安な時代の幻覚を描いた作品です


これはピサの斜塔ではありません
昭和初期のノスタルジアを表現したかった作品です

 父がこの絵を見た時
「オレの子供の頃はこんな感じだった」
と言ってくれて嬉しかったのを覚えています

この作品を発表した90年代
『ユングの部屋』系列の絵はあまり理解されませんでしたが
サイトの普及のおかげで共感していただく声も多くなってきました

今回のリニューアルで さらにその感触を高めている次第です

サイトという分野が心を繋ぐ要素があるせいかもしれません
でもこれが理解されやすくなったというのは
あまり健康な時代ではないということかな

でも作家にとってダークサイドを露出するのは大切なこと
こういう世界もたまには、いかがでしょうか?

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