先日、東京六本木のサントリー美術館で開催されたばかりの鈴木其一展、行ってまいりました。
わたくし、いつもこの人の名前を「すずききいつ」ではなく「そいつ」と読み間違えてしまうのです。「そいつ」は誰だ?・・・なんて、ウフッ♪
いや、実に見応えのある素晴らしい展覧会でした。サントリー美術館の企画はハズレがないのですが、最近は宮川香山やエミール・ガレなど、どちらかというとキワものというと言い過ぎですが、「おなかいっぱい」 な企画が多かった中、久々の正統派アートの展覧会でした。
周知の方もいると思いますが、「琳派」というのは江戸初期から末期にかけての300年にわたる、アートのスタイルの総称です。
それは俵屋宗達や本阿弥光悦など、戦国時代を生きた絵師たちにはじまり、江戸中期の尾形光琳や尾形乾山などによって確立された、装飾的で華麗な様式美を旨とします。必ずしも師弟関係が必ずもあるわけではなく、先人への敬意を込めてそのスタイルが貫かれているのですね。
光琳から100年はそのスタイルが断絶されていて、琳派の様式を復興させた酒井抱一(さかいほういつ)の一番弟子のひとりが鈴木其一だったのです。江戸後期から幕末に向かおうという時代でした。
鈴木其一は琳派の展覧会では必ずと言っていいほど、何かしらの作品が展示されている人ですが、どれも抱一の弟子という立場で絵が並べられてあり、何となく後期琳派の2番手というイメージがあったのですが、いやなかなかどうして!
このように作品が一堂に会して並べられていると、酒井抱一はもちろん、尾形光琳&乾山に勝るとも劣らない絵師に違いありません。
見る前に抱いていた想像とことなったのは、意外に達者な絵師であることです。
(私などが、鈴木其一に達者かどうか言うのもおこがましいのですが)、もちろん絵描きにも上手い下手があるのですが、中には「ヘタな絵が描けない」という画家もいます。
俗にウマ下手なんて言いますが、別の言い方をすると「味のある線、とでも言いましょうか。
ほかの琳派展などで抱一と一緒に並べられている、其一の作品は、こちらの印象だけかもしれませんが、どちらかというと「味のある絵」ばかりで、あまり上手な絵師には思っていなかったのです。
いや、それが実に達者な絵描きでありまして、さすがに幼少の頃から抱一門下で研鑽を積んだだけある見事な筆さばきでありました。
以前、伊藤若冲を特集したTV番組では、抱一と若冲を比較して、その細部の密度の違いを検証していましたが、鈴木其一も若冲のような細部のこだわりはありません。
そのかわり、一瞬の線にかける集中度というのはたいそうなもの。
ジャズアルバムの名盤、マイルス・デイビスの「カインド・オブ・ブルー」には、アルバムでピアノを担当したビル・エバンスのライナーノートがあって、ジャズの即興を日本の墨絵に例えています。
つまり、ジャズの即興演奏は、一度線を引いたらやり直しがきかない墨絵と同じだというのです。
一瞬のパッションを絵の中に封じ込める絵の妙味。
画集を見たところ、展示されてない絵もいっぱいあり、どうやら10月10日以降に展示替えがあるようで、私はもう一度見に行こうと思ってます。
まだしばらく展覧会はやっています。
みなさまも、ぜひぜひ、鈴木其一をご堪能あれ!