映画「北斎 Hokusai」(続き)〜絵師どうしの饗宴も豪華。絵とは勝負するのが良しか、無心で描くのが良しか?

映画「北斎 Hokusai」、昨日書かなかったことがあるので、追加記事です。

この映画の見どころのひとつに、若い北斎、初老と思しき歌麿、子供のように若い写楽の3人が版元の蔦屋重三郎のもとに集まり、饗宴となる場面があります。

映画で若い頃の北斎は、絵を描くことに勝ち負けをつけたがっていました。

「オレの方が上手い」「オレの絵の方がすごい」

実際に北斎先生がそんなことを言ったかどうかは知りませんが、負けずぎらいだったことは間違いないでしょう。

絵師に限らず若く才能がある人間に、そんな勝負心があるのは不思議ではありません。あの大天才、手塚治虫先生が若手のマンガ家たちに、そんな対抗心をいつも抱いていたそうなので、むしろそういう闘争心があった方が作り手にとって創作意欲につながるかもしれません。

ただ、絵を勝負ごとだけに片寄ってしまうと、人の心に触れる作品とは違うものになってしまうことはたしかです。

「自分はこんな凄いもの、凄いことができる」

そういう気持ちが作品に入りすぎると、さながら若者がおじさんの武勇伝を聞かされるようなもの。妙に鼻につくものです。

後年の北斎は勝負よりも、無心で絵を描くこと、道を極めることに腐心するようになりますが、それが四十路になるかならないかの脚本家が書けるというのは凄いことだな。同い年くらいの自分には、そんなことは考えられもしなかったですね。

分野は違いますが、あの大ピアニストのダニエル・バレンボイムは、若い頃は才気走っていて、それが鼻につくような演奏でした。
それが後年、一転して作曲家の意図をどれだけ汲めるか。自分をあくまで作曲家の媒体に徹するピアニストに変わりました。年齢を重ねると、そういうこともあるものですね。

一方で、一生勝負心を失わない人もいます。
これはどちらが優れているかではなく、どちらがその人本来かでしょうね。

映画の脚本が良かったと思うのは、歌麿と写楽の描き方ですね。

一見しなやかに見えて、実は投獄されるも辞さない骨のある絵師・歌麿を演じていた玉木宏さんも良かった。

また東洲斎写楽をまだ21歳の浦上晟周(うらがみせいしゅう)という俳優が演じていたのも面白いところですね。写楽という人については何もわかっていないので、映画はすべて創作だと思いますが、若い不思議な才能という演出は良かったと思います。

で、こちらは以前トカナに掲載された歌麿の記事。
▼ご笑覧いただければ幸いです。
日本に鎖国はなかった!? 浮世絵で読み解く江戸時代~
66年ぶりに公開、歌麿「深川の雪」~

それにしても、90歳で死の床に着いた時に言った最後の言葉。

「天我をして五年の命を保たしめは、真正の画工となるを得へし」(天があと5年の間、命を保つことを私に許されたなら、本物の画工になり得たであろう)。

つくづく北斎とは凄い絵師、凄い画家だったと思わずにいられません。

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