顔は心の鏡 其の二「狩り場のチャールズ1世」

「顔は心の鏡」の2回目です。
前回、政治家の顔について述べましたが、本日はアートの話をいたしましょう。

上の絵は「狩り場のチャールズ1世」。
17世紀のはじめ、イギリスで活躍したフランドル生まれの画家、ヴァン・ダイクの筆によるものです。

こちらはタイトルの通り、西洋の王侯貴族が大好きだった狩り場の絵ですが、鏡の前でこれとそっくりなポーズをとってる人を、ジムのロッカーで見ました。ちゅうか、そういう人は毎日のように大勢おりまして、今さら言うほどの話ではありません。

きっとチャールズ1世も鏡の前でこんなポーズをとっていたんでしょうな。

肖像画というのは、絵描きにとって二重三重な難しさがあります。
ひとつには、そもそも似顔絵のような線画ならともかく、油彩でそっくりに描くというのは相当な技術が必要です。

たとえばコピー機でその人の写真を拡大して、輪郭をトレースしても、技量がなければ絶対に似てきません。これは人間の顔はあくまで三次元なので、輪郭は1cm、1mm写真の角度が変わっても全然違うものになってしまうからです。

さて、その課題をクリアしたとして、そっくりに描いた肖像画を果たしてクライアントが気に入ってくれるかは別問題です。芸術的にいくら優れものでも、「こんなのわたしじゃない!」と思われたら、肖像画としては役割を半分以上果たせなかったことになるのです。

さて、このチャールズ1世のポーズをご覧くださいませ。
よくスナップ写真などで、いちばんよく写るものが自意識だなんて言いますが、肖像画の場合はそれを如何に表現するかが肝心です。

チャールズ1世は多分にナルシスティックな人なようですが、人によると美醜に関わらず男でも女でも 鏡が好きでない、写真に写るのが好きでないという人も少なくありません。

実物より格好よく描けばクライアントが満足するというものではなく、じぶんが描いてる良い面のイメージを絵にすることが肝要なのですね。

ただ、この王様の場合は、一番自分が満足する姿というのが、このナルシスティックなポーズだったのでしょう。

ヴァン・ダイクの恐ろしいところは、そうやって鏡に写る王様の姿を見事に描きながら、この人を人とも思わないような視線も同時に描いていることです。
チャールズ1世は、じぶんがこういう目をしてるというのをまったく気にしなかったのでしょうな。

王はこの肖像に大満足だったようですが、心なしかこの冷たい視線は、この15年後にピューリタン革命でギロチンにかけられる運命を象徴してるかのように思えます。

次回はまた明日!

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