”夏目漱石の美術世界展” 見てきました!

昨日は東京都美術館で行われている、母の所属している書道展「同文展」を見た帰りに、前から見たいと思っていた「夏目漱石の美術世界展」を見てきました。

芸大美術館は久しぶりで、いつの間にか増改築をしていたようで、思った以上の大規模展覧会にびっくり。

展覧会の中でも紹介されていましたが、漱石と絵画といえば「我が輩は猫である」の中に、美学者・迷亭が、飼い主の苦沙弥(くしゃみ)先生の絵に注文をつける、こんなくだりがあります。

「昔むかし以太利の大家アンドレア・デル・サルトが言った事がある。画をかくなら何でも自然その物を写せ。天に星辰あり。地に露華あり。飛ぶに禽あり。走るに獣けものあり。池に金魚あり。枯木に寒鴉あり。自然はこれ一幅の大活画がなりと。どうだ君も画らしい画をかこうと思うならちと写生をしたら」

「へえアンドレア・デル・サルトがそんな事をいった事があるかい。ちっとも知らなかった。なるほどこりゃもっともだ。実にその通りだ」

で、このアンドレア・デル・サルト。
後日、彼の言葉に感心した苦沙弥先生に迷亭氏曰く。

美学者は笑いながら「実は君、あれは出鱈目だよ」と頭を掻かく。

「何が」と主人はまだいつわられた事に気がつかない。

「何がって君のしきりに感服しているアンドレア・デル・サルトさ。あれは僕のちょっと捏造した話だ。君がそんなに真面目に信じようとは思わなかったハハハハ」と大喜悦の体である。

子供の頃、わけがわからないながらも「猫」は読んでいたわたしは、話の最初の方に登場するアンドレア・デル・サルトはよく覚えていたのですが、美大に進学して、16世紀イタリアに実在したマニエリスムの画家だと知ってびっくり!

こちらがそのアンドレア・デル・サルトの作品です。

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この絵だとわかりにくいのですが、マニエリスムというのは、ルネサンスからバロックのちょうど間くらいの時期、人体に独特の曲がりや歪みを加えた絵画の流れを言いますが、こちらはロンドンのナショナル・ギャラリーに収蔵されてる作品。

おそらく漱石はこの絵を見て、この一文を書いたのかもしれません。

蛇足ながら、後日の迷亭氏と苦沙弥先生のやりとりに、こんなくだりがあるのですが・・・。

「しかし冗談は冗談だが画というものは実際むずかしいものだよ、レオナルド・ダ・ヴィンチは門下生に寺院の壁のしみを写せと教えた事があるそうだ。なるほど雪隠などに這入って雨の漏る壁を余念なく眺めていると、なかなかうまい模様画が自然に出来ているぜ。君注意して写生して見給えきっと面白いものが出来るから」

「また欺すのだろう」

「いえこれだけはたしかだよ」

どうやら、この時代。レオナルド・ダ・ヴィンチですら、よく知られていなかったわけですね。

漱石が留学していたロンドンには、「岩窟の聖母」と「レオナルド・カルトン」と呼ばれる美しいドローイングが収蔵されていて、若き文豪を驚かせたに違いありません。

さすがに漱石というか、レオナルドが「門下生に寺院の壁のしみを写せと教えた」といったくだりは、わたしの記憶がたしかならヴァーザリの「ルネサンス画人伝」に似た記述があったと思います。

当然、この時代にヴァーザリの存在を知る日本人が多かったはずはなく、漱石が独自の情報で入手したことなのでしょう。

それにしても、漱石の作品にこれほど絵画に関する記述があったとは驚きで、その分量はマルセル・プルーストの「失われた時を求めて」に匹敵するかもしれません。

なんだか、展覧会の本題に移る前振りが長くなってしまいましたが、この続きはまた後日書くことにいたしますので、お楽しみに!

 

↓ こちらは東京都美術館に出品されていた同文展における母の書道です。

 

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