昔、遠藤周作が書いていたエッセイに、
自分が死んだあとも、世の中はいままで通り普通に動いていく。
それはどんなに不思議なことだろう、というものがあった。
父が亡くなってから、たまたまその言葉を思い出した。
晩年・・・ここ何年か父は床について動けなかったことがほとんどだったが、
自分が何を考えていたのか語ることは、ほとんどなかった。
物理学者というのは、頭の中で物事を組み合わせて作り出すことができる、
特殊な脳を持っている人種なので、あまり退屈することはなかったろうが、
それをアウトプットする体力は残っていなかったので、
親爺が考えていたことが何だったかは、永久に失われてしまったことになる。
そもそも父は自分の思想を書物に残すということはしなかった人なので、
著書をひもといてみても、それは知りえない。
でも、きっと何かを言いたかったんだな。
死の数日前は、意識はあっても言葉も出ない日があって、
何ともモノ言いたげな目をしていたものだが・・・いったい何を伝えたかったのだろう。
ねえ、お父さん?