「7日間ブックカバーチャレンジ」で選んだ「星の王子さま」ですが、今回は3つ目の翻訳、河野万里子訳で読んでみました。
結論から言うと、この翻訳が一番読みやすく内容がすらすら頭に入ってきました。
河野万里子先生が、原文と先人の翻訳をつけあわせて、いろいろ研究した成果もあるのでしょうが、さすがという感じでした。
名訳の決定版と呼んで差し支えないかと思いました。
それにしても読めば読むほど迷宮に入っていく不思議な物語ですね。
作者が王子さまに出会った話を、思い出して書いてるだけのストーリーなので、ドラマチックな展開があるわけではありません。
一見、王子さまが出会った相手を、 並べて書いてあるだけなのですが、それなのに引き込まれて読んでしまう。
本文中には短いストーリの中で、王子さまと作者、わがままなバラやうぬぼれ男、王さま、キツネ、ヘビなど、さまざまなキャラクターが登場します。
面白いことにキツネ以外は、考えていること、思っていること、見ているものが、各々でまったく違うのです。
卑俗なたとえになりますが、今回のコロナ騒動では「アベノマスク是か非か」「検察庁法改正案是か非か」など、さまざまな意見がSNSにアップされています(私自身が、その「是か非か」をどう考えているのかは別の機会に申し上げましょう)。
ただSNSの意見などに目を通すと、自分が見ている世界と、いかに違う見方をしている人たちが、この同じ世界にどれだけ多く混在しているか思い知られます。本来、人どうしは本当の意味で理解しあえるものではないということですね。
「星の王子さま」の中で書かれているキャラクターたちは、「大人って変だ」と王子さまが思うように、一つのものでもそれぞれまったく違う見方をしています。
ただ、キツネだけはちょっと違うようです。
キツネが言う、「いちばんたいせつなものは目に見えない」という、あの有名な言葉は、それをあらわしているような気がしました。
ただ、目に見えないたいせつなものが、いったい何なのかという答えはありません。
ある人は「愛」だと答えるでしょうし、ある人は「絆」というかもしれませんが、そもそも目に見えないものなので、人によって違うでしょうし、その答えがひとつとは限りません。
ただ、多くの「星の王子さま」読者が、この言葉に言い知れぬ美しさを感じるのは確かなようです。
「星の王子さま」全編に流れる、人が持ついちばん美しい感情が、この「いちばんたいせつなものは目に見えない」という言葉に集約されているのかもしれません。
たいせつなものは美しい。
ドストエフスキーが、人の心にあるいちばん美しいものを書こうとして「白痴」を書いたのは有名ですが、それと似た美しさをこの言葉に感じました。
「7日間ブックカバーチャレンジ」、チェーンメールみたいで嫌だという声もありますが、今回はこの名著を何度も読み返す、いい機会になりました。
この本が世に出て70余年、残るものはやはり素晴らしい。